2020 Global tiger day(世界トラの日)にあたり - KOKI YAMADA PHOTOGRAPY

ランタンボールではメインエリアだけで見ても、この2年近くで、実に20頭以上の虎が生まれている。
虎は生後半年あたりまでは母親の警戒心が非常に強く、更に生後半年〜9ヶ月以降の成長がとても早いため、生まれて間もない子猫の様な時期を撮影できる機会は滅多にないのだが、世界の中で見ても、ランタンボールは虎の生態の貴重な機会に出会える場所の一つと言えるだろう。

しかしながら、そんなランタンボールでも、虎のトータル生息数は、生まれてくる子供の数に比例して伸びていない。
もちろん自然の摂理の中で命を落とす虎がいることは事実なのだが、最も大きな問題は、成獣の虎が生きることのできる森の面積自体が足りていないことだ。これはランタンボールに限った話ではない。実は比較的に安定した生息数を保っている様に見えるインド中の国立公園が直面している問題なのだ。

特にオスの虎は、自らのテリトリー拡大と繁殖のために、広大な範囲を移動して交配する相手を探す生態だ。
しかし、いくら大きな国立公園と言えども、数百頭単位の虎がそれぞれ縦横無尽に移動できる森などインドのどこを探してもない。
国立公園に隣接して街が作られ、道路が敷かれ、次の森は数百キロ先というのが実情なのだ。
つまり、街や道路によって分断された森が点在しているだけなのだ。
だから、子供を産み、独立時期(生後2年)までの間を育てられても、その先、それぞれの子供がまた独立したテリトリーを持つようなスペースの余裕は存在しない。
出産・独立までの生育に必要なスペースと成獣が生息するに必要なスペースは全く別の次元の話なのだ。
これまで 写真展などを通して何度か話してきたことだが、テリトリー争いの敗者は人間エリアへ追いやられる。
(だから世界の衝撃映像なるもののインド編ではしょっちゅう、虎や豹が街中に出る映像が現れる。)
人間エリアに追われることで新たな別の問題が生まれ、結果として“猛獣”扱いされた動物達の命が狙われるという負のスパイラルを生み出しているのだ。

現在、ランタンボールにおける虎の生息数は、森のキャパシティに対して一杯になっている。
だから生後2年半を過ぎた頃になると、他の国立公園(整備途上であったり、虎の生息数が少ない国立公園)に移送される虎がいるのだ。
その後、それらの場所で餌場を持てれば幸せだが、正直ランタンよりも餌が少なく、人間による害が及ぶ可能性の高い場所に移送されるのが現実である。
これまでも、取材を始めてから、自分にとって思い入れのある虎が2頭移送されたことがある。
(幸いどちらの虎も、まだ生き抜けていているという情報を得ているが、これはかなりラッキーなケースなのだろう。)
そして、もう少し時が経つと、おそらく僕が子猫のような時から撮影していた虎が移送される時期が訪れるだろうと憂いている。
今のランタンの実情を考えればそれは如何しようも無いないことなのだが、そういった虎達の将来を知りつつも、一方で虎達親子の純粋で、愛情溢れる姿を撮影をすることは、非常に感情を揺さぶられるものだ。

今日7月29日はGlobal Tiger Dayだ。
今後、世界で野生の虎の生息数が右肩上がりになることは極めて困難だろうが、少なくとも、2010年から見ればその生息数は改善されている。
そして、これから先もまた、少しでもその数が維持されていって欲しいと願う。。微力ながらそのために自分が出来ることをやり続けたい。それは変わらない。

日々、動物達の保護、密猟者との闘いをしている方々へ深く感謝したい。
そういう人たちのおかげで、僕は美しく生きる虎達の姿を見れているし、伝えることができるのだから。

※Global tiger day(World tiger day)は2010年から始まった取り組みで、世界的な虎の保護を目的に、虎の現状に対する認識を持ってもらい、人々の意識・支持を高めていくための活動です。

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