山田耕熙の個展「Nahar — Ranthambhore(ナハール ランタンボール)」を代官山ヒルサイドフォーラムにて開催いたします。
本展は初の大規模個展であり、長年取り組んできたシリーズの集大成となるものです。また、展示作品も収録される初の大型写真集出版に向けて、制作が進行中。「人と野生動物たち、一緒に未来へ」と語る山田の言葉にもあるように、自然と人間の共存について深く問いかける内容となります。
展覧会の中心に据えられるのは、インド・ランタンボール国立公園で撮影された「野生の虎」の存在です。現地の人々が「Nahar(ナハール)」と呼ぶ食物連鎖の頂点に立つベンガルタイガーは、この地域において生態系の均衡を保つ象徴的な存在であり、同時に観光資源として地域住民の生活とも密接に関わっています。一方で、虎をめぐる問題は生態系の保全だけにとどまらず、増加する人口や観光地化による自然環境の変化、さらには保護区の維持に伴う課題など、現代社会が直面する複雑な環境問題をも同時に浮き彫りにしています。
ランタンボール国立公園は、かつてジャイプールのマハラジャの狩猟地でしたが、1955年に保護区、1980年に国立公園として指定されました。現在では、保護活動によって虎の個体数は回復しつつあるものの、人間との新たな問題も生じています。本展では、山田がランタンボールで撮影した写真や映像作品を通じ、虎を取り巻く環境とそこから見える様々な社会問題に焦点を当てて考察します。
また、本展が10世紀頃の要塞遺跡を包みこむように再生する森や、湖畔に生息する野生動物の豊かな生態系を提示すると同時に、偉大な捕食者である虎の生息地を守ることが、地球全体の環境保全や私たちの未来にどのように関わるかを考えるきっかけとなることを願います。
山田が撮影した、虎とその棲む世界の美しさ、儚さ、そして力強さが、私たちに自然との新たなつながりを見出すきっかけを与えることでしょう。