・自分と虎とを重ね合わせた
フラジャイルとは、よくガラスなどの壊れやすい物を運ぶ際使われる「壊れ物注意!」と言う意味で、脆さ、弱さを表す言葉です。
ではなぜ森の生態系の頂点に立ち、強さや繁栄の象徴ともされて来た虎の写真展に、この正反対とも受け取られるテーマをつけたのか、少しだけ説明をさせて頂きます。
僕は会社を経営し、責任ある立場にいるのですが、数年前に自分が置かれた状況が、突然当たり前でなくなるような辛い出来事がありました。それは今ではすっかり乗り越えることが出来たのですが、まさに長く、暗いトンネルの中にいるようで、将来に対する不安感、恐怖感の中で気持ちが揺れ動いていた時期でした。そんな時に出会ったのが、虎だったのです。
そして虎について興味を持ち、調べる中で、人間の手によって絶滅の危機に瀕している一方で、もはや人間の保護が無ければ生き残れないような、不安定な存在であること知りました。しかしながら、実際に大自然の中で見る虎は、そんな生き残ることが難しい状況の中でも1つの生命として力強く生き抜こうとしているし、懸命に生きようとする印象的な姿を幾度となく見て来ました。
そんな時、何か危うい状況の中で揺れ動きながらも闘っている生き物同士(自分と言う生き物と虎と言う生き物)の姿が勝手に頭の中で重なり、ついには虎が自分にとって特別な存在になってしまったんです。写真展のテーマにもなっているフラジャイルと言う言葉は、あの時の壊れやすい自分の気持ちと儚い存在である虎の姿を重ねて表現しています。
ですから、どちらかと言うと、虎の持っている強さはもちろんですが、それと同時に存在する1生命としてのか弱さや存在としての儚さ、危うさの方にいつも心をつき動かされています。
・DMの写真と右の写真との間にある揺らぎ
例えば、DMにも使った、独立を控えた若い雄虎の写真を見てください。僕には、まるでこれから彼に待ち構える熾烈な生存競争への不安感や、1人で生きていくことへの迷いなどを感じた表情に見えたのです。
でも、そこからわずか10分前の表情である反対側にある同じ雄虎の表情からは、逆に強く生き抜こうとする強い意志をも感じました。
そういう、人間が感じるのと同じような心の中における揺らぎ、そう言った部分を意識して撮影をしている写真も多いので、是非そんな視点を持って見て貰えたら嬉しいです。
・虎と虎との争いの裏側にあるもの
この真ん中にある大きな写真は、僕が一番好きな虎であるPacmanと言う虎です。ただ、もう彼に会うことは出来ません。2月に亡くなってしまいました。
雄虎は4、5歳くらいになると、繁殖のために自らのテリトリーを広げる行動にでます。その際起きる争いが、他の虎とのテリトリー争いです。ただ、単独で狩りをして生きて行く虎にとって、怪我は致命傷ともなり得ます。よって、本来虎は、互いに怪我を負うリスクを避けるために極力争いをさける動物なんです。
しかし人間が森林を伐採し、生息地域を制限された虎達は無用な争いを避けることが出来ず、生きていく為には戦わざるを得ない状況が今のランタンボール国立公園にはあります。そして、その戦いに敗れた者には、もっと辛い、現実的な死が待っているのです。
Pacmanは、そんなテリトリー争いにおいて最も強い雄虎と戦い、大きな痛手を負い、ジャングルの外、人間が住むエリアに追いやられてしまいました。そして、結果的には命を落とすことになります。
一見虎同士の争いに見えるテリトリー争いの裏側には、実は人間によって作り出された、戦わざるをえない理由があると言うことをお伝えしたいと思ってお話しました。詳しいお話はしませんが、ご興味がある方は後でお声がけください。とても複雑な状況があることも事実です。
▶ 6.森の王者だからこそ際立つ愛おしさ